みなさん、翻訳者という仕事についてどのようなイメージを持っていますか?魅力的な異文化と接し、新たな言葉を紡ぎ出す知的な仕事というイメージかもしれません。確かにその部分は翻訳者の魅力の一つではありますが、一方で、「翻訳者」であることがどれほど「しんどい」ことであるか、これを理解している方は少ないかもしれません。
この記事では、「翻訳者」という仕事の「しんどい」部分を紐解きながら、仕事の裏側にあるリアルな現場を描き出します。報酬の低下、締切のプレッシャー、仕事の不安定さ、キャリアアップの難しさといった課題が、翻訳者を取り巻く環境の中でどのように作用し、それがどうやって翻訳者の仕事をしんどいものにしているのか、その実態に迫ります。
この記事を通じて、翻訳者の仕事に対する理解が深まり、そして、その「しんどい」部分への理解が広がることを願っています。これがあなたが翻訳者としてのキャリアを考える上で、あるいは翻訳者としての仕事をより良く理解するための一助となれば幸いです。
翻訳者の仕事がしんどい13の理由
好きな翻訳が選べない:初期キャリアの厳しさ
さて皆さん、翻訳者という仕事をご存知でしょうか。文字どおりに言うと、「異なる言語の文章を相互に翻訳する職業」のことを指します。聞くと非常に魅力的で、自分の得意な言語を使って好きなテーマの文章を翻訳できると思うかもしれません。しかし、実際はそう簡単な仕事ではありません。今回は、特に初めて翻訳者としてのキャリアをスタートさせる方々にとって「しんどい」と感じるであろう点についてご紹介したいと思います。
まず、私の考えを明確に述べておきます。それは、「翻訳者の仕事がしんどい理由には、好きな翻訳ができるわけじゃない」ということです。この意見にはいくつか理由があります。特に、初期キャリアの段階でこの点が重要でしょう。
翻訳者としてのキャリアを始める際、まず出てくるのは「実績」です。実績がなければクライアントは自分を信用しません。それは自然なことです。だから、最初は実績を積むために、自分が必ずしも好きではないジャンルの翻訳を手掛けることになるでしょう。ここで「しんどさ」が出てきます。
例えば、ある新人翻訳者が映画や音楽の記事を翻訳することが好きだとします。しかし、初めての仕事として訳すことになったのは、例えば、「彼は2008年の金融危機について詳しく議論した(He discussed the 2008 financial crisis in detail)」といった金融や経済に関する記事かもしれません。これがしんどいと感じる瞬間です。
金融や経済についての知識が乏しい状態で、専門的な文章を訳すのは大変です。さらに、このジャンルに対する興味がなければ、それはさらにしんどくなるでしょう。しかしこのしんどさを乗り越え、最初の仕事を完成させることで初めて「翻訳者」としての実績が出来上がります。
このような状況は、翻訳者としての生活を続けるための現実的な問題です。生計を立てるためには、時には自分が好きでない仕事も引き受けなければならないのです。
不得意ジャンルとの闘い:翻訳の広いフィールド
皆さん、自分の得意なジャンルの仕事を行うのはどれほど気持ちがいいかご存知でしょうか。一方で、不得意なジャンルの仕事に取り組むとき、そのしんどさを感じたことはありませんか。これは翻訳の世界でも同様です。特に、初期キャリアの段階では、自分の得意なジャンルだけでなく、不得意なジャンルの翻訳もこなさなければならないことが多々あります。
そこで今回は、私の考えを基に、「不得意ジャンルとの闘い:翻訳の広いフィールド」についてお話ししたいと思います。
自分が得意とする分野や興味のあるジャンルの翻訳は、楽しみながら行えることが多いです。しかしながら、翻訳者としてはあらゆるフィールドで活動する必要があります。実績を積むため、または金銭的な事情から、自分の不得意なジャンルの翻訳を引き受けることも少なくありません。
具体的な例を挙げましょう。ある翻訳者が科学的な内容の翻訳が苦手だとします。しかし、彼の手元にやってきた仕事は「その研究は、量子力学の基本的な理解を一変させる可能性がある(The research has the potential to fundamentally change our understanding of quantum mechanics)」といった科学論文の翻訳です。この時、彼がしんどさを感じるのは自明の理です。
この「しんどさ」は、翻訳効率の低下と直結します。得意でないジャンルでは、必要な知識を得るために追加の調査を行い、複雑な用語について理解しようとするため、通常よりも時間がかかるでしょう。その結果、作業時間が延びることで、しんどさが増すというわけです。
しかし、こうした不得意なジャンルと向き合う経験は、翻訳者としてのスキルを磨く貴重な機会でもあります。このしんどさを乗り越えて不得意なジャンルにも対応できるようになれば、その翻訳者はより広範な仕事に対応できるようになり、自身の市場価値を高めることができるでしょう。
座りっぱなしの仕事:翻訳者の体力戦
翻訳者と聞いて何を思い浮かべますか?細かい文字を凝視し、一言一句を精密に理解し、それを異なる言語へと変換する作業、それが翻訳者の日常です。ただし、その裏には意外な厳しさが潜んでいます。それは、「座りっぱなし」の職業であるという点です。これが意外としんどい理由となっています。
翻訳者という職業は、基本的にパソコンの前で作業を行います。自分の理想を追い求めるかのように一つひとつの言葉を選び出し、理解し、翻訳する。この作業が蓄積されることで、一つの作品が生まれます。それは決して簡単な作業ではありません。長時間、座り続けるという体力戦が求められるのです。
また、現代の翻訳業界はAIやクラウドワーカーの出現によって大きな変革が進行しています。その結果、翻訳作業の価値はどんどんと下がり、翻訳者の仕事は厳しさを増しています。これが、翻訳者が大量の仕事をこなさなければならない理由となっています。つまり、長時間座って作業をこなすことが翻訳者として稼げるかの鍵となるわけです。
具体的に見てみましょう。たとえば、ある翻訳者が一日に翻訳できる文字数は約3000文字とします。しかし、その日に訳すべき文章が10000文字あった場合、仕事を終えるためには約3.3日必要となります。これが、翻訳者のしんどさを一層引き立てています。
しかし、このしんどさは、翻訳者の職業を続ける上での必須条件です。効率的に作業を進め、体力を維持するための工夫が求められます。
絶えざる学びの必要性:英語学習の果てしなさ
英語翻訳者としての道を歩むには、英語の習得だけで終わりではありません。言葉の学習は一生の旅であり、その途中にはしんどさが待ち受けています。ですが、それが翻訳者の仕事における重要な一面であり、専門性と品質を保つための基盤でもあります。
英語は、生活の中で常に新しい言葉や表現が生まれ、既存の言葉が新たな意味を持つことも珍しくありません。一方で、翻訳者の仕事は、常にその変化に追いつき、理解し、適切に訳すことが求められます。このことから、英語学習と翻訳技術の向上には終わりがないと言えるでしょう。
実際に、新たなスラングやビジネス用語、専門的な技術用語など、知らないと困る新しい表現が毎年数千語も生まれていると言われています。これらを全て把握し、正確に翻訳することは困難ですが、それでも最新の言葉や表現を追いかけ、学び続ける努力が必要となります。
それだけではなく、翻訳者は英語だけでなく、その他の専門知識や文化的な理解も深める必要があります。たとえば、医学論文を翻訳するには医学的な知識が必要ですし、その国の文化や風俗を理解しなければ、文化的なニュアンスを正確に伝えることは難しいでしょう。これが、翻訳者が絶えず学び続ける必要がある理由となります。
この「絶えざる学び」は確かにしんどい部分もあります。しかし、ビジネスの世界でよく言われる「現状維持は退化を意味する」という言葉が、翻訳者にも当てはまります。常に前進し、新たな知識や技術を吸収し続けることで、自分自身を成長させ、プロフェッショナルとしての価値を保ち続けることが可能となります。
専門外分野との対話:翻訳者の初級者体験
翻訳者の仕事の一つの醍醐味は、自分が思いもよらない多種多様な分野の知識に触れる機会があることです。しかし、それは同時に、自分の専門外の分野と向き合うという、時にはしんどい経験を伴います。何年にもわたり英語を学んできても、特定の分野の知識がない場合、翻訳の作業は初級者のような感覚に戻されます。
これは英語力とは別の次元の問題で、専門的な知識や背景情報が必要な場合、そこには挑戦が伴います。例えば、科学技術の論文や法律文書などは、その分野の知識がないと、正確な翻訳ができない場合があります。あるいは、特定の業界の専門用語やジャーゴン、地域特有の表現など、専門知識が必要となる文脈も多くあります。
自分の専門外の分野を翻訳する際には、まずその分野について理解を深めるための調査が必要となります。このような時に、いかに効率的に新しい情報を吸収し、適切に翻訳に反映させるかが重要となります。
たとえば、医学の分野についての翻訳を依頼されたとしましょう。医学の知識がほとんどない場合、専門的な用語や表現に困惑することでしょう。そうした時には、まず医学辞典や医学文献を調べ、専門用語の意味や使い方を理解することから始めます。それが終わったら、翻訳作業に移りますが、自分の専門外の領域での翻訳は、自分の英語力とは別に、新しい分野についての理解力が問われるという点で、しっかりとした挑戦となるでしょう。
AIとの競争:テクノロジーと翻訳者の未来
最新のテクノロジーの進歩は、翻訳者の仕事にも大きな影響を与えています。その中でもAI、つまり人工知能の進歩は、特に翻訳者の存在価値を問い直すほどの変化を引き起こしています。
AIの翻訳能力は、ここ数年で急速に向上しており、特に一般的な文書の翻訳においては、一部ではすでに人間の翻訳者を凌駕するケースも現れています。その象徴的な存在として、ChatGPTなどの高度な自然言語処理モデルが挙げられます。
このようなAIは、人間のように文章を読み、理解し、適切な翻訳を生成する能力を持っています。さらに、AIは人間と違い、物忘れをすることなく、広範で深い知識を持ち続けることができます。これはつまり、常に最適な情報を選び出し、適切な翻訳を提供することが可能ということです。
人間の翻訳者がこれに対抗するためには、人間だけが持っている特性や能力を活用することが重要となります。しかし、それは同時に、AIとの競争が増えることで、翻訳者の仕事がさらにしんどいものになることも意味します。
翻訳者にとって、AIとの競争はしんどい戦いであることは間違いありません。それは、たとえ英語力があり、翻訳技術に秀でていても、AIには物忘れがなく、あらゆる分野の膨大な知識を即座に引き出す能力があるからです。そして、その能力は日々進化し続けています。
一方で、まだAIには到達できない領域も存在します。それは文化的背景やニュアンスの理解、感情や創造性、人間の直感など、人間が持つ特性と能力です。例えば、同じ言葉でも、文化的背景や社会的状況によって意味が変わることもありますし、人間の感情やニュアンスを正確に理解し反映するのは、現在のAIにはまだ困難です。
AIとの競争は、翻訳者にとってはしんどいものであるかもしれませんが、それはまた新たな可能性を示すものでもあります。翻訳者としてのスキルを磨き続けると同時に、AIとどう付き合うか、その活用方法を考えていくことが、今後の翻訳者に求められるスキルとなるでしょう。
AIの進化と人間の限界:文脈理解と細かいニュアンス
AIの進化によって、人間が持つ独特の能力であると考えられていた領域が少しずつ侵食されている現代。その一つが、文脈の理解と細かいニュアンスの捉え方です。昔の翻訳機には、文脈やニュアンスを正確に理解する能力がありませんでしたが、現代のAI技術、特にChatGPTのような高度な自然言語処理モデルの出現により、その壁が崩れつつあります。
翻訳者の仕事は、単に言葉を別の言語に置き換えるだけではなく、その背後にある文脈やニュアンスを正確に理解し、それを翻訳に反映させるという繊細な作業を要求されます。しかし、AIが文脈を理解し、ニュアンスを掴む能力を持つようになると、この領域が翻訳者にとって非常にしんどいものになることは間違いありません。
文脈を理解するというのは、単に文章の意味を理解するだけでなく、その文章が含む隠れた意味や、原文の誤りを全体の文脈から見つけ出すという能力を指します。そして、AIはこの能力を持つようになりました。具体的な例として、ある英語の文章が誤って”the cat the barked”となっている場合、人間であればその全体の文脈から”the cat that barked”ではなく”the dog that barked”が正しいと理解できます。このような能力は、AIにも備わっています。
また、細かいニュアンスを理解する能力もAIにとって重要なスキルとなりました。これは、特定の感情や態度、微妙な意味の違いなど、人間だけが理解することができると考えられていた領域です。しかし、最新のAIはさまざまな表現パターンを学習し、その中から最適なニュアンスを選び出す能力を持つようになりました。
これは、AIがニュアンスを理解できるだけでなく、それを表現することも可能であるということを示しています。
レベルの高い翻訳者への仕事集中:市場の厳しさ
AIの進化は、翻訳者の市場にも大きな影響を与えています。その結果として、1割程度のレベルの高い翻訳者に仕事が集中するという現象が見られています。それが翻訳者たちにとってしんどいところであります。
まず、一部の専門的な文章や心に響くような文章を書く場合には、まだまだ人間の翻訳者の役割は欠かせません。また、AIが作成した文章に対する編集作業も、人間が作成した文章と同じように、人間の翻訳者による手間を必要とします。これらの仕事は、一定のレベル以上の翻訳スキルと、細やかなニュアンスの理解を必要とします。
しかし、そういった仕事は少なくとも現時点ではまだ限られています。しかも、それらの仕事はレベルの高い翻訳者によって手がけられることが多く、その結果、翻訳の仕事はレベルの高い一部の翻訳者に集中しているという現状があります。
さらに、AIの発展によって高いレベルの翻訳者は、より高速に作業をこなすことが可能になりました。例えば、以前は1時間で3000語の文章を翻訳できた翻訳者でも、AIの支援を受けることで、その時間を半分に短縮することが可能になりました。これにより、高いレベルの翻訳者が更に多くの仕事をこなすことができるようになり、結果として仕事は更に集中する傾向にあります。
このように、現在の翻訳業界では、上位1割の翻訳者に仕事が集中するという厳しい状況が続いています。これが、翻訳者たちにとってしんどいところでしょう。しかし、それは同時に、自身のスキルを磨き、高いレベルの翻訳者へと成長するための、新たな挑戦の場でもあります。
翻訳者の孤独:フリーランスという選択
翻訳者が経験するしんどいところに、孤独感があります。特にフリーランスの翻訳者がこの孤独感と向き合うことは、避けては通れない道のように思えます。
一つの理由として、フリーランスという働き方が挙げられます。自由な時間を使って、自分のペースで仕事ができるのがフリーランスの魅力ですが、その裏側には、人との接触が少なくなるという現実が存在します。具体的には、オフィス勤務と違い、同僚や上司とのコミュニケーションが自然と減ります。また、日常的な人との交流が減ることで、一人で仕事を進める時間が増え、孤独感を感じることもしばしばです。
また、フリーランスの翻訳者が経験するしんどい現状として、報酬の低さがあります。特に駆け出しの頃は、安い報酬でも仕事を受けざるを得ないケースが多く、それによって作業時間が増えます。このような状況下で、さらに人との接触が減ることから、孤独感は増していきます。
日本のフリーランス労働者の調査によると、全体の約30%が孤独感を感じていると報告されています。この中でも特に割合が高かったのは、自宅で仕事をしている人たちでした。これはフリーランスの翻訳者にとって、一つの共感点となるでしょう。
これらの要素は、翻訳者が経験する孤独感の一因となり、仕事を進める上でしんどいと感じる部分です。しかし、それは同時に、自分自身と向き合い、自分の能力を見直し、成長するための重要な機会でもあります。孤独感を感じたときこそ、自分の成長のための時間と捉え、新たな一歩を踏み出す勇気が必要なのかもしれません。
報酬の低下:クラウドワーカーとAIの影響
翻訳者の生活をしんどくさせる要素の一つとして、報酬の低下が挙げられます。この問題は、現代のテクノロジー進化と密接に関わり、これまでの翻訳業界のビジネスモデルに大きな変化をもたらしています。
近年、クラウドワーカーが増えたことで、翻訳の単価が低下してきています。これは、多くの人々がインターネットを通じて世界中からアクセス可能な仕事を受けることが可能になった結果です。低単価で仕事を受けることが可能なクラウドワーカーは、その量によって総報酬を稼ぐスタイルとなっており、結果的に市場全体の翻訳の単価が下がることとなっています。
さらにしんどい現実として、AIの進化があります。AI翻訳技術の進化により、一部の簡単な翻訳作業はAIが代行することが可能となってきました。その結果、人間の翻訳者が必要とされる場面が減少し、これもまた翻訳者の報酬低下に繋がっています。
このような変化を見ると、未来の翻訳者は、ただ単に翻訳するだけでなく、AIがまだ対応できない領域、例えば、文化的な背景を理解した翻訳や、複雑な専門性を持つ文章の翻訳などに特化していく必要があると思われます。そのような能力を持つ翻訳者の需要はまだ存在し、その価値は高まることでしょう。
締切のプレッシャー:時間管理の難しさ
次に私が取り上げたい、翻訳者の仕事がしんどいと感じる要素として「締切のプレッシャー」と「時間管理の難しさ」があります。これは翻訳者だけでなく、フリーランスとして働く多くの人々にとって共通の課題でしょう。
翻訳者は、通常、締切という明確な時間制限とともに仕事を受けることが多いです。しかもその締切は、しばしば短いものであることが珍しくありません。この絶えず迫り来る締切というプレッシャーは、心身に大きな負担をかけ、作業がしんどいものになることがあります。
また、不得意なジャンルの翻訳作業は、予想以上に時間がかかることがあります。その理由は、専門的な知識を必要としたり、細かいニュアンスを把握するために深い理解を必要としたりするからです。
一つの翻訳作業に時間がかかると、他の案件への影響も避けられず、時間が経つにつれて問題は悪化します。それぞれの案件が他の案件に影響を及ぼし、結果として全体の作業スケジュールが崩れてしまう可能性があります。
しかし、この問題に対する解決策は存在します。その一つとしては、自分の得意なジャンルの案件を優先的に受けること、また自分の能力や時間管理スキルを向上させるための研修に参加することなどが挙げられます。
仕事の不安定さ:フリーランス翻訳者のリスク
フリーランスの翻訳者の中には、日々の業務に加えて「仕事の不安定さ」という、しっかりとした地面が見えないような、漠然とした不安感に襲われる人も少なくないでしょう。仕事が来なくなる不安が常につきまとうこの業界では、一度得たスキルが生かせないという悩みが尽きないのが現実です。
フリーランスの翻訳者は、自分で仕事を見つけ、契約を結び、仕事を完成させ、次の仕事につなげていく、というサイクルを繰り返しています。
特に案件を探し、受け入れるフェーズは、日々変わる市場の需要に敏感でなければならず、これが続くかどうかは予測できません。これらの不確実性は、翻訳者の仕事をしんどいものにする大きな要素と言えます。
仕事を続けるためには、新たな案件を探し出し、その案件を確保する能力が必須となります。これには業界の動向を把握する力、人脈作り、マーケティング能力など、翻訳技術だけでなく、ビジネススキルも求められます。これらのスキルを磨くことで、フリーランスの翻訳者は市場の変動に対応し、自身の仕事を安定させることができます。
しかし、その努力が絶えず求められることは、翻訳者の仕事をしんどいものにしているのも事実です。
キャリアアップの難しさ:翻訳者の進路
フリーランスの翻訳者として働く上で、もう一つ見過ごせない大きな課題が「キャリアアップの難しさ」です。多くの翻訳者は独自のスキルを磨き、一定量以上の作業をこなすことで収入を確保します。しかし、その作業量やスキルがどれだけ増えても、業務の管理や指導を行う立場に移行することは難しいのが現状です。
この問題は、翻訳者が基本的に個々の案件に対して自己責任で仕事をするという業界の構造に根差しています。つまり、翻訳者はどれだけ経験を積んでも、その経験をもとに上層部へと昇進するという道が開かれにくいのです。そのため、翻訳者は基本的に独立した立場で仕事を続けることが求められ、それが一部の人々にとってはしんどい側面となるでしょう。
しかし、この問題に対する解決策も存在します。その一つは、自分で翻訳会社を設立することです。これにより、翻訳者は管理職としての立場を得ることができ、他の翻訳者を指導する機会も得られます。もしくは、自分のスキルと経験を活かして他の業界に転職することも一つの選択肢でしょう。特に、翻訳者としての経験は、コミュニケーションスキルや異文化理解能力といった、他の業界でも活かすことができます。
おわりに
これまでの記事で、翻訳者の仕事がどれほど「しんどい」ものであるか、その実態について詳しく見てきました。報酬の低下、仕事の不安定さ、孤独感、締切のプレッシャー、そしてキャリアアップの難しさといった課題が翻訳者の日々に影響を及ぼし、この仕事をしんどいものにしています。
しかし、その一方で、異なる言語や文化を橋渡しするという翻訳者の役割は、深く魅力的なものであり、それが彼らを支え、しんどい時期を乗り越える原動力ともなっています。
これらの「しんどい」部分を理解し、それに対処する方法を模索することで、翻訳者としてより強く、より聡明になることができるでしょう。そして、それが翻訳者自身の成長につながり、結果として業界全体の発展に寄与することを信じています。
この記事が、翻訳者という仕事に対する理解を深める一助になり、また、これから翻訳者という道を選ぼうとしている方々の参考になることを願っています。しんどいと感じることは決してネガティブなことではなく、それを乗り越えることで得られる経験や知識は、あなたを一層成長させるでしょう。
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